ナッツ類やワイン用ブドウにも使用
ガン、免疫機能の低下、脂質異常、胎児の発育不全など人の健康に様々な影響をもたらす恐れがある有機フッ素化合物(PFAS)は、これまで、半導体工場の排水や軍事基地で使用される泡消火剤などが、飲み水の原水となる河川や地下水を汚染していることが主な問題になってきました。
ここ数年、アメリカやヨーロッパでは、これらに加えて農薬の原料として使用されている PFAS が農産物に残留する「残留 PFAS」が注目されています。
アメリカの環境保護団体 EWG が、11月18日に公開した調査結果によると、最大の農業州である西部カリフォルニア州では、2018年から2023年の6年間で合計1500万ポンド(約6.8トン)ほどの PFAS 入り農薬(PFAS 農薬)が使用されたとわかりました。年平均では約250万ポンド(約1.1トン)になります。
農作物別では、日本にも輸出されているアーモンドやピスタチオなどのナッツ類、カリフォルニアワインの原料となるブドウ、さらに糸もやしのアルファルファ、トマトなど様々な作物に日常的に使用されていることがわかりました。
日本で使われている農薬も
EWG によると、アメリカでは66種類のPFASが農薬への使用を認められていますが、そのうちカリフォルニア州での使用が確認できたのは52種類。
使用量が特に多い PFAS 農薬は、除草剤のオキシフルオルフェン、殺虫剤のビフェントリン、除草剤のトリフルラリン、殺虫剤のラムダシハロトリン、殺菌剤のペンチオピラドなどで、どれも、日本で使用が認められています。
ビフェントリンとトリフルラリンは、人の健康や環境への影響が懸念されるとして、欧州連合(EU)はすでに域内での使用を禁止しています。
農薬に使用されるPFAS の大半は、炭素鎖が短い短鎖PFASです。
短鎖 PFAS は、PFOS や PFOA など酸素鎖の長さが長い長鎖 PFAS に比べて分解されやすく毒性は比較的低いとされています。
しかし、あくまで長鎖 PFAS に比べてという話で、毒性があることに違いはありません。また、親水性のため、環境中への浸透速度が速く、汚染範囲が広くなると言われています。
EWGによると、PFAS 農薬は時間がたつと分解されて、トリフルオロ酢酸(TFA)という別の種類の超短鎖 PFAS に変化する可能性があります。TFA は、環境中や人体から検出される頻度が増えていて、健康への影響が懸念されています。
カリフォルニア州だけではありません。中西部ミネソタ州の農務省が作成した2025年報告書によると、州全体で登録されている農薬製品の15%がPFAS 農薬でした。
やや古いデータですが、アメリカ地質調査所の2018年の推計では、PFAS 農薬の使用量はアメリカ全体で年2200万~3500万ポンド(約1万~1万5900トン)に達しています。
規制強化の動き広がる
PFAS の農薬への使用が認められたのは1970年代ですが、使用量が目立って増え始めたのは10年くらい前からと言われています。PFASは分解されにくいという特性を持つため、農薬としての効果を持続させる目的での使用が増えているのです。
PFAS 農薬に対する懸念が強まる中、規制強化の動きも出始めています。
北東部メーン州は2023年、PFAS 農薬を禁止する州法を制定しました。
アメリカだけではありません。
欧州連合(EU)の規制当局は2025年3月、PFAS 農薬の除草剤フルフェナセットの登録更新を、 甲状腺への健康リスクとその分解産物である TFA による地下水汚染を理由に拒否しました。
デンマークは2025年7月、PFAS 農薬による地下水汚染を防ぐため、6種類の PFAS を農薬に使用することを禁止しました。
一方で、アメリカのトランプ政権は11月下旬、2種類の PFAS 農薬を新たに承認し、さらに別の4種類の PFAS 農薬を近く承認する方針を明らかにしています。
トランプ政権の EPA 幹部には農薬業界の元ロビイストなど産業界出身者が多く、農薬の規制緩和はある程度予想されていました。
アメリカでは当面、連邦レベルでは規制緩和、州レベルでは規制強化という動きが続きそうです。
日本では話題にすらならず
欧米で使用されているPFAS 農薬は当然、日本でも使用されていると見て間違いありません。
しかし、日本では PFAS 農薬について規制強化するか否かの議論がなされるどころか、話題にすらなりません。おそらくほとんどの日本人は、農薬に PFAS が使用されている事実すら知らないでしょう。
日本ではいまだに、どこどこの自治体の井戸水からPFASが検出されたという程度のニュースしか目にしません。欧米のように、政府や地方自治体が実効的な規制強化を打ち出したり企業の排出責任を追及したりして PFAS から国民の健康を守ろうとする姿勢はまったく見られません。
ですから、消費者は自分自身の手で PFAS農薬から身を守るしかありません。
一番有効なのは、できる限り有機や無農薬の農産物を選ぶこと。有機や無農薬でも土壌や農業用水がすでに PFAS に汚染されていれば摂取リスクは高まります。
しかし、PFAS 農薬からの摂取は避けられるので、リスクは相対的に低いと言えます。